☆人生が選んでくれたもの☆

 

これから どうなるかはわからないんです。

樂家15代吉左衛門さんは

ご自身の作品の今後についてこう語った。

「どうなるか わからない」

日本文明が際立って個性的なわけは、たぶんここにある・・・

そして人生の肝もまたここにあるように私には思われます。

西洋の美が完全な美であるだけでなく、

同じ東洋と比べても、日本ほど未完を愛でる国はないように思う。

それはどうしてなのか・・・?

ひとつの大きなヒントがこの樂一族の壮大な歴史にありました。

 

同じ中国の影響を受けても朝鮮半島はかなり違ったお国柄です。

一時ハンリュウブームであちらの時代ドラマが人気でした。

わたしもいくつか楽しんで観ていたのだけれど

ドラマの進行にしたがって違和感を感じることが多くなりました。

社会の形や美意識の違い。

あちらは日本とはかなり違っている。

まず、科挙。

つまり実力が第一。

日本がありとあらゆることを中国に学びながら、

科挙を取り入れなかったことには、先祖たちの確かな芯をみる思いがします。

 

日本は貴族から武士の時代になっても、庶民の文化芸術分野においても

世襲制度をとりいれてきた国です。

世襲なんて、なにかと悪者として批判されがちですが

わが国の平和な国民性はこの世襲と切っても切れない間柄にあります。

多彩な文化、技術、思想面でもこれが大いに生きている。

ものごとというのは長い長いスパンで見なくては本当の姿はみえない。

だから群雄割拠の戦国時代みたいにしょっちゅう支配者が入れかわり

のんびり腰を下ろしていられない状態では

文化は熟成しないし 民度も安定しない。

さいわい 日本は最古の王朝のもと、一度も国を滅ぼされることなく

文化がぶっつり途切れることがありませんでした。

また天皇のもとには藤原だの、源氏将軍だの、北条、足利、徳川と

権力者がいれかわっていったけれども

彼らもみな世襲を重んじました。

江戸時代のゆたかな発展も、将軍や藩主の家臣が世襲であったことが大きい。

先祖代々の家来だったら殿様も安心して政務に集中できるというもので、

この国には科挙や成果主義は、どうも肌に合わないように思われるのです。

 

そしてこの樂さん。

15代450年もの間、京都の同じ場所でお茶碗を作りつづけている。

当代が使う土は何代も前の集めた土だったりする。

目先のことばかり考えている現代社会とは時間の流れが違う。

だからこそ、ここまで発展し

世界のどこにもない静寂な世界があるのではないだろうか。

 

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パラパラと図録を見ていたら、97年にパリで樂展を開催したとき

長次郎の茶碗の前で長い時間たたずむ人が多くあったそうで

その中の美しい初老のご婦人に感想を聞いてみたところ、こう話したという。

「 とても静かです。

この黒いお茶碗は我々ヨーロッパの持っている静けさとは

異なるように感じられます。静けさの質が違うのです。」

 

わたしはここを読んでちょっと驚いた。西洋でも長次郎茶碗のもつ

精神をこんなふうに分かち合えるのだと。

そこにひとびとは何を見ているのだろう?

長次郎の茶碗は、個性や装飾を削ぎ落とした「無」です。

この無に、ひとびとは何を見ていると思われますか?

少なくとも私にとって長次郎の「無」は ほんものの非日常でした・・。

 

この展覧会でとくに素敵だな~と思ったのは3代道入です。

きらっと光る垢抜けたセンス。

同時代に野々村仁清がいますが、その時代の華やかな風を感じます。

でも仁清の雅な図柄とはだいぶ異なるのは

無作為な雰囲気を醸す絵柄でしょうか?

月夜なら朧月夜こそロマンチック・・・と思うのは古代から

日本独特の美意識です。

わざとらしさは野暮で、予定調和はどこか疲れる。

そんな美意識がわたしたちのなかにも確かに息づいています。

 

わたしは以前、京都旅行にでかけたとき

めったに旅行中降られることのない雨に降られてしまいました。

もういやになっちゃうわ・・・

でも天気は天の気。しかたない。

結構大雨になりそうだし美術館へまいりましょう、

ということになり、たまたま樂美術館を選びました。

この経験は私たちにとって、のちに本当に大きな意味を帯びてきました。

詳細は話しませんが。

でも、いま長次郎の茶碗に宇宙を見出すことができたのも

このときのこの雨のおかげ。

 

人生は自分でデザインするものばかりでないことは明白です。

これまで私が予想外に大きく枠を広げたとき、それは自らの意思ではなく

人生が選んでくれたものに従ったときでした。

今回の美術展の神秘体験もこの後どんな人生模様を生むのかわかりません。

わたしがアラフォー世代になったときに得た収穫は、

「世の中に対する信頼」でした。それは

「人生に対する信頼」でもあります。

樂家当代の言葉と、今のわたしの心境がなんだか響きあうように感じられて

とても幸福な「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展でした

語りだすときりがないのでこのへんで・・・・・

おみやげは鼓月とのコラボのお菓子。

 

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千寿せんべいは大好物、長次郎と鼓月のコラボをわが身に取り込んで

その余韻にひたった数日間。。そんなわけで、ここのところ

お茶碗の話ばかりしていた熱すぎーる我が家でした

 

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