遠い時をこえて 再会しました
川端 康成 『 古 都 』
これはわたしが初めて読んだ純文学の本なんです。
中学生のころ
読み終わったとき、ひとつ大人になったような気がして
両親にむかって得意気に報告したのが昨日のことのようです。
そののち一度も読み返すことなく年月を送り、
いま読み返せば、ストーリーばかり追いかけるタイプの
小説とは別格の風格。
言い表せない感動をおぼえました。
日本人として初のノーベル文学賞をおとりになった川端さん。
当時三島さんや谷崎さんという候補もあったようですが
川端康成でやはりよかったのではないでしょうか?
やまとうたのこころが流れる小説。
日本独自の ひらがな という文字を美しく用い、
目にも耳にもなだらかな文章のしらべ。そして余情・・・。
淡いようで奥にどっしりとした強さを宿している。
私なんかが語ってしまったら作品世界が損なわれてしまいそうですが
古都は、字で書いた京都絵巻、美しい姉妹の物語をのせて、
といったところでしょうか?
また、じぶん磨きの記念すべき出発点も、
わたしにとってはこの作品だったように思います。
上質な本を読むという習慣がうまれたこと、
そして教養の大切さをわたしのなかに植えこんでくれた作品ですね。
「 捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、
祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。
二人はふたごだった。
互いにひかれあい、懐かしみあいながらも
永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない・・・・・。」
(新潮文庫版裏表紙より抜粋)
この世でたったひとり血のつながった実の姉妹に
やっと巡り合えたというのに・・。
苗子は一緒に暮らしたいと願う千重子にこう言いました。
「 お嬢さん、今では、生活もちごうてますやろ。
教養みたいなんもちごうてますやろ。
室町のくらしなんか、あたしには、でけやしまへん。
たった一度、たった一度だけ、
お店へ来さしてもろたんどす。 」
中学生のわたしはここを読んだとき、仰天しました。
えー!
教養がちがうと お友達にさえなれなくなるんだろうか?・・って。
じゃあ教養ってなんだろう?
学校のお勉強のことかな?
うーんそれだけでは、ないみたい・・・って。
アイドルとファッション雑誌に夢中だった中学生のわたしが
当時ふだんの会話でほとんど耳にしなかった「教養」という言葉に
あこがれと、畏怖みたいなものを、
このとき感じたのをいまでもよくおぼえてる。
たまたま母の親友が川端氏と親しいおうちに嫁いでいた関係もあり、
わたしには生まれる前から
この方はどこか特別な作家さんだったように思います。
その名を聞くと、とおいとおい記憶が呼びさまされるような・・・。
お互い こまきのお菓子が好きなことも同じ
文豪をしのんで こまきへおじゃましてみました。
季節をうつした藤波というお菓子をえらびました。
お茶碗にも 初夏を予感させるさわやかな藤が描かれています。
たくさんのお店が 生まれては消える鎌倉にあって
こまきのお菓子にはひとびとを飽きさせない何かがあって・・・
こちらのおばあちゃまの
やさしいお声や お心ばえも ステキ・・・
円覚寺のおとなり 時がとまったような空間で
いつまでもあり続けてほしいお店です