今回源氏物語をところどころ読み返し、発見したものは数多くて
めまいがしそうです
わかりやすいところをピックアップすれば、
女性の運命を考察する上でこのヒロインも魅力的でした。
花散里
わたしが10代のころは、花散里は地味すぎて興味がわかなかった。
けれども年を重ねるにしたがって、彼女の美点はどんどん光ってみえます。
紫の上に次いで、源氏の第二夫人のような地位をものにした花散里は、
容姿は残念ながら平均以下です。
にもかかわらず永久に変わっていかない愛情を源氏は持ち続けますし、
花散里も彼の愛情を堂々と受け入れていました。
そもそも桐壺帝の麗景殿女御の妹という、れっきとした上流の花散里は
根っからの貴族体質。自分を卑下したり、媚びたりすることはないのです。
ここ、恋愛における大事なポイント
家庭的な彼女はいつも控え目で、染色・織物、衣装選びに長け、
御所暮らしの経験から万事そつなく、
夕霧や玉鬘のやさしい養母ともなって、源氏一家をしっかり支えていきます。
平安時代の上流貴族も、案外現代と変わらず、夫や子どもの衣装など
センスある世話ができなくてはいけません。彼女はここも優等生
光源氏と花散里夫妻は、仲睦まじく語りあうシーンが印象的です。
同じような教養や価値観を共有できるもの同士、
会話はいつも弾んでいますね。
政治権力者である源氏にとって、心を許して語りあえる親友のような存在です。
共に“語れる”というのは、知的な夫婦にとって欠かせない要素でしょう
紫式部が『蜻蛉日記』の影響をうけていることはほぼ間違いないと思います。
あの作者、道綱の母というのは、本朝三美人の一人という絶世の美女。
才色兼備で、染色、裁縫などもお得意な、一見、最高の女性。
それで見事玉の輿に乗るものの、彼女の嫉妬深く強情な性格がことごとく災いし、
しだいに夫の心はすっかり離れていってしまうのです・・・
妻としてメンタルの安定というのは欠かせない条件でしょう
ヒステリックだったり鬱っぽいようでは、出来る男の嫁は務まらず、
源氏の重々しい夫人はみな自律できています。
無償のやさしさをもち、家政も安心して任せられる。
そんな花散里を勝ち組という人もありますが、
ほがらかな心もちで人生を楽しく見る、
というこの能力は、平凡にみえてきわめて優れた才能です。
紫式部という作家はそういう目には見えない才をいつも軽視しません。
美しいがゆえに気苦労の多かった紫の上より、ある意味幸せだったかもしれず、
器量にかかわらず人柄の良さと才覚があれば
運は開けるのだ、という一つのモデルとなっていますね