『美しくなるにつれて若くなる』

 

大好きな白洲正子のエッセイです。

『美しくなるにつれて若くなる』

 

shirasumasako1001s

 

彼女の本といえば日本文化に関する深い随筆が多いですが、

こちらは若い方一般にむけて書かれたもので、一見読みやすいです。

が、さすが白洲正子、奥が深~い。

うなってしまう名文の数々。。。

私ごときではまだまだ理解できない部分がいくつかありました。

 

「人間も磨かなければ曇ります。

若い頃美男だった人が三十になるとふつうの男になり、

四十すぎると見られなくなるのは、みんな自分のせいです。

時間のせいではありません。

本来ならば、人間は老人になればなるほど美しくなっていい筈です。」

 

実際、英国人の中でも殊にいいのは老紳士、といわれるそうです。

最上にキレイなときを老人になって迎えられたら、本当にステキ。。。

 

そして智恵について。

人間の美しさも、無智な者と智恵にあふれた者の美しさとでは

違うと言っています。

彼女のいう智恵とは、もちろん学校で勉強する学問や

簡単に得られる知識ではありません。

 

「たしかに昔の女の人はこんなに浅薄なものではなかった筈です。

私達の母も、私達の祖母も、憲法こそ暗記してはいなかったが、もっと立派な、

もっとたのもしい人達でした。

彼らは私達ほどに勉強もしませんでした。男女も同権ではありませんでした。

それにもかかわらず、押しても突いても動かない、非常に強いものをもっていました。

純粋に家庭の人としての生活の中から、私達のいい加減な学問や教養が教える以上のことを、

ものを、彼らはたしかに得ていました。」

 

彼女自身、自分が確立できていないという思いから、

様々な本を読みあさったと以前読んだことがありますが、

白洲正子ほどの人でもそうであったのだと驚いたものです。

自分なりの哲学といいますか、ぶれない軸のようなものを確立できたら

どんなに素晴らしいかと私もずっと考えてきました。

 

現代人が昔の人よりずっと弱くなっているのも確かではないでしょうか。

科学は発展し、女性も高い学歴を得られるようになった今、

果たして人間は進歩しているのかどうか。

たとえば私など、祖母の世代なら何でもないようなことですぐに迷い、

ストレスを感じてしまうことが多々あります。。。

ゆるぎない自分をつくるには、結局自分の人生にひたむきであるしかないんだと

読んでいて改めて思いました。

 

この本を読みながら、何度も私の頭に浮かんできたのが“禅”という一文字。

何事においても、ただひたすらに徹底的に生き切るのだという

強いメッセージが伝わってくるのです。

そうしてもって後から、教養だの智恵だのというものがついてくるのでしょう。

何不自由ない一生を送れたお姫様が、自ら厳しい道を求め

白洲正子という完成された世界をつくっていった・・・

その言葉には一つ一つが無駄なく、ずしんとした重みがありました。

 

最後の鶴川日記にみる白洲夫妻の人脈も華麗で豊かです。

人物各々のエピソードやしみじみとした触れ合いも興味深いのですが、

豊かな交友関係の裏には、秩父宮さまから近所のお百姓さんまで、

公平に見つめる白洲夫妻の目線があるのです。

真の教養、そしてエレガンスとはこういうことなのかもしれないと思いました。