源氏もいいけれど この季節はやっぱりこれです
春はあけぼの やうやうしろくなりゆく山ぎは
すこしあかりて 紫だちたる雲のほそくたなびきたる
早起きなさる方なら、今こんな色合いをごらんになれるでしょうね。
ここで言う「山」は、京都の東山。
わたしはあの辺りを歩くとせまってくる東山の稜線を、
清少納言も見ていたんだわーと感慨深く眺めてしまうのです。
先日BSの高島礼子さんの日本の古都で『枕草子』がとりあげられ、
素敵に編集されていました。
何といっても魅力なのは、藤原定子というプリンセス
歴史の教科書に登場するので、誰でも名前はご存知かと思いますが、
一条天皇の皇后定子は才色兼備で人柄もすぐれ、
日本史の中で最も輝く女性のうちの一人だと思います。
枕草子の作者清少納言はその定子につかえる女房でした。
定子サロンへ初めてあがった時、清少納言は半泣き状態でもじもじしていました
そこへ定子は絵をお持ちになり、親しげにお声をかけます。
「この絵を、あなたはどう思う?」
そのとき、定子の袖からのぞいた指先の美しさに清少納言は見とれてしまいます。
「いみじうにほひたる薄紅梅」
なんとも言えずほんのりと色づいた薄紅梅色・・・・・
この世にはこんなにも美しい方がいらっしゃるのだわ
田舎育ちで主婦だった清少納言は、高貴な社交界に一瞬で心酔!
とびきり素敵なところへ就職できた喜びにふるえながら、
以後本領を発揮して、いきいきと活躍しはじめるのです。
さて、いまでは匂うと薫るの語源を意識することはないですが、
それでも私たちはこれをなんとなく使い分けています。
たとえば匂うような美女とはいっても、香るような美女ってあまり使いませんよね?
それは私たちの中に日本語の歴史がしっかり息づいている証拠かもしれません。
「にほひ」は、語源は「丹穂ひ」。
穂先が赤く明るむような光り輝くような視覚的な美しさをいい、
「かをり」は、嗅覚的な美しさ。
これだけとっても、日本語はなんて豊かな感性言語かと思います。
細やかなやまと言葉は、私たちを上品にしてくれますね。
いみじうにほひたる薄紅梅のお后定子のサロンは当時一世を風靡していました。
宮中の宮仕えは、女子高等教育機関のような役目を果たしていたと言われます。
豪華な殿舎、華やかな衣装、洗練された会話、
圧倒的な存在感をもつ貴顕がつどう宮廷サロン
家柄・容姿・才能などで選抜されたお嬢さまエリートと
貴公子がくりひろげる知と美の社交界です。
そこでのやりとりは知識だけでなく、頭の回転、勘のよさといったスピード感が命でした。
才女ぞろいといっても一番の才女は、后の定子です。
清少納言との初対面のとき彼女はまだ17歳でしたが、
すでに堂々たる女主人にして優秀な企画者。
人を束ねる天才でした。
定子の前では誰もが快く緊張し、高い教養の香る世界が紡ぎ出され、
その美意識の粋を集めたのが、日本三大随筆の一つ『枕草子』なのです。
しかしこの聡明でやさしいお后は、24歳の若さでこの世を去り
亡くなる前は実家が没落し、悲劇のプリンセスでもありました。
源氏物語の桐壺の更衣は定子がモデルでは?という説もあります。
定子が皇后だった期間はとても短いですが
枕草子を通して今も人々に影響を与えつづけていますし、
彼女がいなければ紫式部の源氏物語だって、きっと生まれていないのです!
平安貴族の実在の恋愛や事件には、どんな小説よりも奇であり珍であることが多く、
まだまだお喋りしてみたいところなのですが・・・・
とりあえず今日はここまで♪ ごきげんよう