前回上野に来たとき、西洋美術館のポスターがとても気になりました。
なんだろう この女性の微笑・・・
クラーナハ?
う~ん どこかで見たような画風
おまけに西洋独特のこわい物語が隠されていそうな雰囲気じゃない?
調べてみると宗教改革のルターの肖像画を描いたのがこのクラーナハで
妙になつかしい気がしたことにも納得。
中学生のときから教科書で顔なじみだったからだわ~
で、上野公園の銀杏の黄葉がロマンティックなこの季節、ふたたびやってまいりました。
クラーナハ展 500年後の誘惑
ぐんと冷え込んでクリスマスが近づいてくると
私は西洋の宮廷絵画や宗教画を見たくなります。
とくに北方のクラシカルな雰囲気って好き♡
遠近法のない平面さが、かえって重々しいというか。
同じルネサンスでも大好きなラファエロの軽やかさとはまるで違う
この硬さも、神聖な聖堂で祈るときの気持ちに似て 好きです
毎年木枯らしが吹くころにはバッハがお気に入りになり、
ザッハトルテや濃厚なバターケーキなんかが食べたくなり、
王侯貴族のゴージャスな絵が観たくなるわたし♪
今回どの絵も衣装がステキに描かれていて
金の刺繍や真珠をあしらった贅沢なドレスは見ごたえがありました。
北方貴族の衣装というのも、おもしろい。
ビロードの布地の重みまで感じられるようです
クラーナハは神話のヒロインのヌードを妖しく描いたことでも有名だそうですが
個人的にはそのエロティシズムには興味をひかれませんでした。
でも、艶っぽいのに冷めているという、
クラーナハの描く女性の視線ってなかなかいい♪
男を翻弄する女は
どっしり強い
だからこそ底知れぬ魅力をたたえ
そんな女性に一度はまったら
男はだまされても、骨抜きにされても、殺されても
恍惚となってしまう・・・
そんな男女の様子がポスターの絵、「ホロフェルネスの首を持つユディト」や、
この「ヘラクレスとオンファレ」にもよく表れています。
そして今回いちばん驚いたことは、
この画家が世界に仕掛けた手法や、ビジネス感覚のほうでした。
ルーベンスのような大工房を時代をずっと先取りして開設していたこと。
画家でありながら市長までつとめていたこと。
世の中のニーズを、自分が描くことで挑発し、湧き上がらせてしまうこと。
そして宗教改革のプロデュースです。
クラーナハがいなかったらルターという存在がここまで認知されることはなく、
またプロテスタントが定着することもなかったかもしれない。
ルターは聖職者でありながら結婚しました。
現在でも神父さまやシスターって独身ですが、牧師さんは妻帯者も多いですね。
プロテスタントのルターの結婚を絵画によって世の中に広めたのは
このクラーナハだったんです。
彼は絵筆でルターの存在をひろく宣伝し、
ラテン語以外ではじめて書かれたドイツ語の聖書の挿絵も担当。
この人の絵がなかったら世界史も違ったものになっていたかもしれないという
人類史を大きく動かしたひとりです。
1517年の宗教改革から折りしも500年を迎えようとしているいま、
その歴史の大転換点を上野でじかに目の当たりにし、
歴史の一証人になったようなふしぎな気分で
むかしむかしの古い聖書を見つめながら私は時をわすれて佇んでいました。
西洋美術館は東京23区初の世界遺産ということでにぎわっていますが
クラーナハ展はそれほどの混雑もなく
じっくり鑑賞でき、非日常の旅を満喫♪
好き嫌いのはっきりした画家さんかもしれませんが
あの天才ピカソも魅了したというクラーナハの冷たい視線の女性たちに
逢いにいってみるの おすすめです